子育てのバランス感

小崎 恭弘(大阪教育大学教育学部 准教授)

更新:2016-05-16

 父親が子育てをすることの大きな意義として、子育てのバランスがうまく取れるということがあります。子育てには大きく分けると二つの力が必要になります。「母性」と「父性」です。まず子どもを育てる上では母性が中心です。母性とは、優しさ、包み込む、受容する力と言われています。全部を受け止める、子どもをありのまま丸ごと受け止めるのが母性です。しかし「母性=母親」「父性=父親」ではありません。両方とも人が子どもを育てていく中で培っていく力です。
 母性によって子どもを無条件に大事に育てていくことで、子どもの中に「自尊感情」と「自己肯定感」が生まれます。教育の中でとても大切だと言われていますが、実はすごく育ちにくい感情です。
 しかし残念ながら母性だけで子どもは育ちません。何が必要かというと、「父性」。強さや切る力です。例えば、外で赤ちゃんが石など落ちているものを拾って食べようとした時。母性だと無条件の愛なので「いいよ」となりますよね。でも実際は、「あかん」と言わなければいけない。「おなかが痛くなるよ」「ばっちいよ」と言う必要があるのです。
 それは何気ないことだけど重要なメッセージが含まれています。「この社会にはしてはいけないことがある」「守らなければならないルールがある」というような、社会の規律やルールを教えていくこと。つまり道徳心や社会性、公というものを伝えていくということです。そのためには、「切る」ことが求められます。子どもの行動を制止してダメと言う。あるいは、母性の中の全受容を少し切って、社会に向かって押し出していく力が父性であるとも言えます。この父性が今の社会で、欠如していますね。けじめや正義が守られにくい原因もここにあると感じています。

 この二つのバランスが、とても大事です。今の子育てを見ていると、非常にバランスが悪い。母性が強すぎると、いわゆる過保護、過干渉になります。包むというのはいい言葉だけれど、一歩間違えると包み込んで逃さないということになってしまう。母性が持つ怖い性質です。最近これが多いです。子どもをすべて自分の手の中に入れて、管理や思い通りに動かそうとしている。母性の恐怖ですね。
 反対に父性が強いと「ちゃんとせい!」という「一方的、強制的」ルールだけになる。公のことだけを言って、根本的な部分での愛情がないから、虐待にもつながっていきます。

 結局この二つのバランスが大事で、このバランスが真ん中でうまく取れている状態を、僕は「育児力」と呼んでいます。母性と父性はどちらも大切で、どちらかが大きければいい、小さければいいというわけではありません。
 一人より二人での子育てのほうがこのバランスがよくとれます。パパの子育ては子どもをよりよく育てることにつながります。

 

執筆者

  • 小崎 恭弘
  • 大阪教育大学教育学部 准教授
  • 1968年生まれ、兵庫県出身。
    専門分野:児童福祉、子育て支援、保育学 研究テーマ「男性の育児支援のプログラムとシステム」 主な著書「我が家の子育てパパしだい」(旬報社)「パパルール」(合同出版)「ワークライフバランス入門」(ミネルヴァ書房)「男の子の本当に響く叱り方・ほめ方」(すばる舎)
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