私は、東北の岩手県で生まれ育ちました。小学生だったのは、もう45年以上も前のことになります(うわぁッ我ながら恐ろしい・・)が、現代よりも文化ということに時間をかけていた時代だったような気がします。
昭和30年代がそうだったのか、自分の通っていた小学校が特別だったのかはわかりませんが、小学校からみんなで映画館に映画を観に行ったり(文部省推薦の映画が主でしたが、学園モノ・恋愛モノの青春映画もフツ-に観てました)、路上で紙芝居や大道芸をみたりする機会もありました。演じるおじさんたちの汗や迫力ある演技は、何度みても飽きることがなく、それぞれ、終わったあとで『おもしろかったね』と共に笑い、『今度、あれ真似してやってみよう』と共にあそぶ仲間がいました。さまざまな行事では必ず歌が歌われました。運動会の歌、読書の歌、卒業式の歌など、今でも覚えている歌詞には、子どもたちが地域や国の未来を担う宝として、将来リッパナオトナになることを願う気持ちがこめられていることに気づかされます。
そもそも、年長者から年少者へ、優れた人から未熟な人へ、語り継がれ、伝えられてきたものが文化です。文化には、勇気や元気、自尊感情を湧きたたせる力があります。子ども時代を振り返った時に、いっしょに笑い、いっしょに怒る仲間がいて、勇気や元気の湧くメッセージと出会う体験や環境があるかないかは、社会や自分自身を肯定的にとらえられるかどうかという大きな違いにつながっていくことだと言えます。子どもたちに、勇気や元気、自尊感情を湧きたたせる文化と出会う機会を創っていくことは、大人が大人としての役割を果たすことだといえるでしょう。たくさんの文化との出会いが考えられる中、子どもたちの夢や想像力を広げ、勇気や元気の湧くメッセージを伝える機会として、舞台鑑賞はまさに言うことなしの体験だということを、私はおやこ劇場との出会いから実感しています。
感動の場面を見た後、子どもに「どこが一番よかった?」と感想を聞くと、「途中の場面で、役者さんが逃げながら、コケそうになってたとこ」とか、「すっごい汗かいてたよねえ」とか、母の感動とはぜんぜん違う答えが返ってくるところも、生の舞台ならではのその子らしい感想でおもしろいなあと思います。
私が特に好きなのは、舞台の上の役者さんが「わああ、きれいな海!」と叫べば、何もなくてもそこはもう海になり、「波の音が聞こえる・・・」と言えば、波の寄せる音が聞こえてくる気がする一体感。でも、それぞれが想像した海や波音を漫画の吹き出しのように見ることができたら、きっとみんな違ってそれもおもしろいだろうなと思うのです。
小さい子どもたちは、とりわけ登場人物や場面に感情移入することができるといいます。おとなにはそんなにおかしいと思えない場面での笑い声(おとなはその笑い声がおかしくて、会場が笑いにつつまれます)や、オオカミに襲われそうになった子ぶたに「おおかみやでー早く逃げやー」と叫んだり、オオカミが「子ぶたはどこに行った?」と言えば「あっちあっち」と違う方向を指したり、絵の中のケーキを手でとる真似をして差し出して「おいしい?」と聞くと、ちゃんと食べる真似をして「おいしい!」と答えたり・・・舞台を通して、子どもたちは自由に想像力を広げて、ゆたかな実体験につなげていくのです。
「やさしさ」「思いやり」「相手の気持ちを想像する」といったチカラは、教えられて身につくのではなく、自分の五感で感じ、自分で考える体験から身につくチカラです。日常だけではなく、非日常の冒険やファンタジーの世界の体験があれば、さらにゆたかなチカラになっていくでしょう。年齢とともに変わる子どもたちの感性の育ちを、おやこで舞台鑑賞を楽しみながら感じていってほしいと思っています。