電車で子どもがぐずったら 専門家が教える親が取るべき行動(4) 周りにいる保護者にとっても大切な経験になる電車

弘田 陽介(福山市立大学大学院・教育学研究科准教授)

更新:2016-12-02

保護者の方には、子どものために右往左往して、あの手この手を使うことを好まない方もおられるかもしれません。しかし、子どもがある程度大きくなっても、なだめすかして、また叱って元気づける日々がまだまだ続きます。もちろん子どもに媚びるのと、上手なコミュニケーションは違います。子どもの連想を上手に沸き起こし、より楽しい時間を過ごせるようにする手練手管は必要なコミュニケーションの手段だと私は考えます。

 移動中騒がせないように、スマホやDSに子どもを預けてしまうのも、いかがなものかと思います。新幹線や飛行機など退屈になってしまう長距離移動は別ですが、電子機器に子育てを任せて、まったく会話がない親子というも味気ないものですし、その後のコミュニケーションを阻害してしまう要因になります。

 冒頭で、ダウンタウンの松本さんのツィートに絡めて、私も小学生の子どもが騒いでいたら親の責任と書きましたが、同氏のツイッター上のその後のやりとりでも見られるように、実際にはこのように単純ではありません。どうしても車中で落ち着いていられない発達上の問題を抱えるお子さんも増えてきています。このような事例では、保護者の方を責めるわけにはいきません。

 このように、今日の子どもの世界も、大人の世界同様に複雑化し、一方的に誰かを断罪することでは済まない状況になってきています。そこで求められるのは、大人の寛容さと保護者の知恵でしょう。もちろん昔のように見知らぬ人々と車中で会話し、社交する必要はありません。

 しかし、車中の方とも「袖触れ合うも多(他)生の縁」です。子どもを連れて電車に乗ることがお互いにとっての威嚇行為になるような社会から、お互いをよい意味で配慮しあうような社会へと変わっていくことに異論を唱える方はいないでしょう。そんなことを思って、この稿を書きました。

執筆者

  • 弘田 陽介
  • 福山市立大学大学院・教育学研究科准教授
  • 大阪市出身。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了(教育学博士)。
    現在、福山市立大学大学院・教育学研究科准教授。
    専門はドイツ教育思想(18世紀後半~、カント、啓蒙主義、神秘主義)、実践的身体教育論(整体、武術、プロレスなど)、子どもと保育のメディア論(アートや鉄道趣味など)。
    著書として、『近代の擬態/擬態の近代』、『子どもはなぜでんしゃが好きなのか』の他に、鈴木晶子編『これは教育学ではない』(冬弓舎、2006)、『教育文化論』(放送大学、2005)にも寄稿。雑誌『日経Kids+』やNHK「あさイチ」毎日放送「ちちんぷいぷい」、朝日放送「キャスト」などでは独自の鉄道文化論が紹介されている。
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