子育てに役立つ鉄道絵本(2) その正しい使いかた 1歳半~2歳半で物語理解の基礎

弘田 陽介(福山市立大学大学院・教育学研究科准教授)

更新:2016-05-16

1歳過ぎくらいから、特に男の子は乗りものや鉄道に興味を示し始めます。もう少し大きくなってくると、電車だけではなく、いろんな乗りものの種類に興味が出てきます。その時期に最適なのが柳原良平さんの『のりものいっぱい』(こぐま社、2003年)です。タイトル通りにいろんな乗りものがいっぱい出てきます。一番町中で身近な車から、意外と人気の高い働く車、鉄道、船舶、飛行機まで網羅されています。

 この時期の子どもは、言葉や知識を爆発的に吸収し、表出できるようになってきます。また2歳くらいになってくると、自動車や鉄道の種類にも関心をもって、積極的に覚えていきます。ですから新幹線はただの新幹線ではなく、新幹線の「700系」とか東北新幹線の「はやぶさ」とか整備用の新幹線「ドクターイエロー」といったように、新幹線のカテゴリーの中にあるサブカテゴリーとしての種類が覚えられていきます。

 この時期に、子どもは知識を吸収する枠組みを頭の中に作っていきます。最初はすべての車両を「地下鉄」とか「JR」といった総称や「山手線」とか「谷町線」などの路線名で呼んでいたとしても、3~5歳くらいに知識の体系化が頭の中で進んできて、固有の呼び名で認識するようになります。

 いろんな乗りものとその名前が登場してくるこの『のりものいっぱい』を何度も何度も声を出して読んであげ、その絵を題材にいろいろ話を展開させることは、子どもの頭の中の整理枠組みを整えていくことになります。別に子どもが鉄道の名前やカテゴリーを間違って覚えていてもかまいません。それよりも、いろんな名称や事物の知識を爆発的に吸収できるこの時期に頭の中に入れてあげて、その後、自分でその知識を整理していけるように手助けすることが保護者や保育者さんの仕事となります。

 そのほかにも、この絵本の特徴は、すべての乗りものに目がつけられて擬人化されていることです。これは、今後の子どもの物語を理解する力の基礎になります。それぞれの乗りものが擬人化されているということは、それぞれが個性や人格をもっているということを想像させることです。子どもは言葉にできませんが、新幹線は「早くてスマートだなー」とか、大きなタンカーは「長くて力強そう」とか、それぞれの乗りものにその子どもたちなりの個性を見つけます。この個性が、それぞれの乗りものに人格(キャラクター)を想像させます。このような擬人化された乗りものに子どもが付与した人格が、3~5歳で身につけていく、筋道のある物語を理解していく力の基礎になっていきます。

執筆者

  • 弘田 陽介
  • 福山市立大学大学院・教育学研究科准教授
  • 大阪市出身。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了(教育学博士)。
    現在、福山市立大学大学院・教育学研究科准教授。
    専門はドイツ教育思想(18世紀後半~、カント、啓蒙主義、神秘主義)、実践的身体教育論(整体、武術、プロレスなど)、子どもと保育のメディア論(アートや鉄道趣味など)。
    著書として、『近代の擬態/擬態の近代』、『子どもはなぜでんしゃが好きなのか』の他に、鈴木晶子編『これは教育学ではない』(冬弓舎、2006)、『教育文化論』(放送大学、2005)にも寄稿。雑誌『日経Kids+』やNHK「あさイチ」毎日放送「ちちんぷいぷい」、朝日放送「キャスト」などでは独自の鉄道文化論が紹介されている。
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