安心して失敗できる子育て・子育ちの場をつくりたい

岡本 聡子(NPO法人 ふらっとスペース金剛代表理事)

更新:2016-09-16

◆失敗することが怖かった

 生まれたわが子を初めて抱いた時、やっと会えた!という喜びの一方で、無事に育てられるのかという不安が私の心を重くしていた。たいてい夜店の金魚を数日中に全滅させてしまっていたし、これなら枯らさないだろうと頂いたサボテンをも枯らしてしまうくらい、私は世話をするという事が苦手だったことを思い出したのだ。
おまけに、腕の中ですやすや眠る娘の首はぐにゃぐにゃで、開いた手のひらは驚くほど小さかった。ほんとに生かしていけるのか、ビビっている私のことなどお構いなしにすべての身を任せる稚児。その顔をまじまじと眺めながら、何があってもこの命は守ろう!と決意した瞬間のことを今でもはっきり覚えている。

 この子を生かす!という自らの決心が、思わぬ方向で私に重くのしかかってくることになる。私が失敗してこの命がなくなってしまう、という事がとてつもなく怖くなった。夜中に何度も息をしているか確かめたこともあった。隣で寝ていて押しつぶしてしまわないかと心配で、抱っこしたまま座って寝たこともあった。今から振り返れば笑い話なのだが、当時は大まじめに奇行を繰り返していた。

 ところが、命がなくなるような失敗が怖かったはずなのに、いつのまにか子育ての正解を求めはじめた。そしてあるべき正解からはずれる失敗が怖くなっていた。母乳の量は?質は?抱き方は?着せる服の素材は?声かけは?外気浴は?感染は?予防接種は?歯磨きは?離乳食は?おむつはずしは?ステロイド薬は?公園デビューは?子育ての日々の中で、失敗してはいけない項目はどんどん増加していく。つまり私の恐れは増大していくばかり。

◆子育ての成功ってなんだろ?

 保健師さんに言われれば、目がみえているのかも定かではない赤ん坊に、頬がひきつるような笑顔で一方的に話しかける。抱き癖なんて心配しなくていいから、気が済むまで抱っこしてあげてと聞けば、ジム通いの筋トレ状態で腕力をつけていた。歯磨きができないと意地になり、指にガーゼを巻いて歯をごしごしして、ゲーゲーさせてみたりもした。アトピーを治すために、全身イソジンまみれにして1日5回もお風呂にいれていたこともあった。

 で、なにかそこに正解はあったのか?と22年経って振り返ってみる。
保健指導も時代によって流行があるようだし、医師によって治療方針も違う。私をずいぶん翻弄した雑誌(いずれニワトリになるネーミング)の特集は、その時代の読者の好みに合わせているだけだし、教育・知育グッズは商品化していて、私はただのお客さんだった。当然のことながら、いずれも子育ての正解を示しているわけではない。なのに、なぜか、私はどこかにあるかもしれない正解を求めてジタバタしていた。

 子育てに正解なんてない!それぞれの子どもは、その子なりに成長していく。これが、今の私の実感。食物アレルギー、喘息、アトピー、鼻炎、結膜炎とアレルギーマーチしていくのをくいとめないといけない、と医師に言われたとき、「マーチしていくならはやく鼻炎あたりに行ってほしいです。」と言って呆れられたことがあったが、アレルギーは治すものではなくて、付き合っていくものじゃないかと、やっと思えるようになった。食べられないものがあり、痒い時があったりしながらも、娘はいろんな事を経験して成長している。

 それに、一瞬の関わりが子どもの未来を決めるから、私がしっかりしなくちゃ!と鼻息を荒くしてみても、私も人間だし失敗もするわよ、と肩の力を抜いてゆるく子どもたちと関わってみても、あまり娘たちに影響を及ぼしたとは思えない。だったら、私は楽チンがいい!

◆安心して失敗できる場をつくりたい

 致命的(文字どおり命に係わる)な失敗は、みんなで力を合わせて避ける必要はあるけれど、子どももおとなも失敗はたくさんすればいいと思っている。失敗に対して、温かく見守りフォローする人がいれば、その失敗は愉快な話に変わるかもしれないし、次への挑戦のステップになるだろう。

 ふらっとスペース金剛では、『子どもわくわく体験隊』という活動を月に1回実施している。わくわくするような体験を、子どもと学生が自分たちで見つけ出し実践してほしいと願っている。もちろん失敗することもたくさんありながら。わくわく、ドキドキ、ハラハラした経験は、子どもたちの心を強くすると私は信じている。

 『ほっとひろば』(地域子育て支援拠点事業)で、未就園のこどもと親が訪ねてくる。今まで出会った3000組以上の親子は3000通りの子育てをしている。わくわく、ドキドキ、ハラハラもそれぞれだし、もちろんそこに正解などない。私もそうであるように、失敗を繰り返しながら親になっている。失敗を乗り越えて子どもも成長している。

 私は、人が勇気をだして、何かに一歩挑戦する今日を過ごし、明日を実らせる姿をみるのがとても好きだ。

 

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